イギリス、世界でのビルマ軍政に対する抗議活動の広がり・一個人の思い

イギリス在住の細見由紀子さんからビルマ情報ネットワーク(BurmaInfo)への特別投稿。

イギリス、世界でのビルマ軍政に対する抗議活動の広がり・一個人の思い

2007年10月9日
細見由紀子

 インターネットで初めて多くの僧侶や尼僧が行進している姿を見たとき、思わず目を疑った。僧侶を守るがごとく行列のわきを手をつないで進む多くの市民の姿に、とにかく自分もこの人たちを守りたいと思った。そして数日後、血まみれの壁が映された僧院の写真を見て、胸が張り裂けそうだった。無論どのような人にたいしても暴力はふるわれるべきでないと思うが、特に仏教に帰依している自分にとって、僧籍にある人たちへの暴力は、仏に対する暴力に等しく、菩薩が攻撃を受けているようで、とても苦しくなった。

 そんな時、参加しているインターネットのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のサイトで、ビルマのお坊さんたちの抗議活動を支援しようというグループを見つけて、そこで自分の住むイギリスでもいろいろな土地で抗議活動がされているという情報を得た。世界中からの登録者のいる国際的な SNSFacebookにあるSupport the Monks' protest in Burmaというオンラインコミュニティは、9月中旬にカナダの19歳の大学生によって作られた。この夏休みにビルマを訪れた彼は、ビルマからのニュースに心を痛めてグループを始めることにしたそうだ。彼の思いはあっという間に広がり、9月29日は一日で10万人のFacebookユーザーがこのコミュニティに参加し、10月9日現在では38万人まで参加者が増え、現在もその人数は増え続けている。

 イギリスでは、今現在、毎日昼の12時から1時までビルマ大使館前に集まってアピールを続けており、また、国会前でも反戦のキャンペーンの人たちの隣で24時間の抗議活動をしている。もう何年もそこに寝泊りしているという反戦活動家のテントの脇に、自分達のテントを設置し、24時間誰かがそこで抗議を続けている。
 10月2日に私もロンドンまでバスに乗って駆けつけ、大使館前と国会前の抗議活動に参加してきた。その日は大使館前でおよそ60人の人たちが集まり、「Free Free Burma Burma!」と皆で英語とビルマ語で声を上げた。イギリス在住のビルマ人の人たちに加え、白人、アジア人などの参加もあり、乳母車に乗せられた赤ん坊を連れた母親、サラリーマン、学生から年配のビルマ人女性まで、さまざまな人が来ていた。この日も大使館からの反応は何もなかったが、時に閉じたカーテンの隙間から参加者の写真を取っているという。世界各地で平和活動を展開している日本山妙法寺の日本人のお坊さんも来られていて、シュプレヒコールの合間にお経を唱えた後、声を上げている人たちの間で合掌してひとり静かに祈っておられる姿がとても印象的だった。

 大使館前での抗議活動の写真をたくさん取っていた人に、今日のことを日本の人たちにも伝えたいので、写真を使わせてもらえないかと話をしたところ、近くのパブに行ってゆっくり話をしようということになった。そこで、これまで彼の取ってきた写真を見せてくれて、何百枚もの写真をCDにコピーして渡してくれた。写真を取っていた彼のおばあさんは、ビルマ人だそうだ。これまでもビルマの人たちをサポートしてきた彼は、今回のニュースを聞いて、銀行でローンを組んで高精度のカメラとそれを保存するためのiMacを購入したという。できる限り抗議活動の現場に駆けつけ写真を撮り続ける彼の情熱に心を動かされた私に、「自分は決して特別ではない。イギリスに住むビルマ人の中でも、今回の抗議活動のために仕事を辞めて大使館前や国会に通っている人が何人もいる。」と話してくれた。

 国会前での24時間の抗議活動は10月1日から始められ、3ヶ月そこで活動する許可が取れているという。イギリスに住むビルマ人を中心に、支援者、通りがかりの人が入れ替わり立ち代わりそこを訪れる。大使館前で声を上げていた時の張り詰めた緊張感とはまた違い、皆でにこやかに話をしていたりする雰囲気に最初は驚いたが、おかげでいろいろな人の話を聞くことができた。
 大使館にも来ていた学生ビザで8年イギリスに住んでいるという30代のビルマ人の男性は、今回のことがあるまでは、政治など興味を持ったことがなかったと言い、また、最初は活動に参加することにたいする躊躇もあったが、顔を出すことももはや自分は恐れていないと語っていた。彼を含め、パスポートの更新などで在英ビルマ大使館に行かなくてはならないビルマ人や、国に帰国する予定のあるビルマ人にとって、こういった活動に参加することが何を意味するのか、十分すぎるほどわかっていながら参加しているこういった人たちの顔に静かな決意を感じた。

 20歳のビルマ人の女子学生は、「今回のことはビルマにいる親が心配するから言ってないの」と笑いながら、他のビルマ人の友だちと共に道行く人に署名を求めていた。夕方になってやってきたイギリス人の初老の夫婦は、毎日ここに通ってきていると言う。話をして彼女の娘さんが昼間の大使館のデモに来ていた子供づれの母親だったと知った。先週末の集まりには家族と親戚の14人で参加したと言う。こういった彼女たちの存在は「活動家」という言葉の作り出す壁を見事に壊していて、ひとりひとりが思いを伝えること、その思いを行動で表すことのパワーを感じさせてくれた。
 言いたいことがある人が、言わなければならないことを言う。そして、言える立場にある人たちが、他の人が言えないことを言う。アウンサンスーチー氏の「Please use your liberty to promote ours」(あなたの自由を私たちが自由を得るために使ってください)という言葉の重みをひしひしと感じた。

 10月6日には、International Day for Global Action for Free Burmaとして、世界の30カ国、100都市以上でさまざまなアクションが行われた。イギリスでも、Burma Campaign UKによるとロンドンで1万人の人が集まりデモンストレーションに参加したという。自分もその日は休めない仕事をしていたので、赤いTシャツにFREE BURMAという文字を布で作って貼り、それを着て世界でアクションに参加している人たちのことを思っていた。
 自分にとっては、大学の時にビルマの仏教のことを少し勉強しただけで、ビルマの事情は正直詳しいわけではなかった。でも、今回いろいろな人たちと話をしながら、とにかく今ひとりひとりが動かなくてはいけないと強く感じた。
 去年イギリスに来たというあるビルマ人は「今回何も変えることができなかったら、いったいあと何年待てばいいのだろうかと時に絶望的な気持ちになる。でも、今はできることをするだけだ。武力で押さえつける軍政の武装がある限り、国内から変えることは難しい。だからこそ国際的なサポート、国連の介入が必要だと思う。」と言っていた。

 ビルマでの暴力を目の当たりにしたくさんの痛みを分かち合い、世界中のそれぞれの場で多くの人が意思表示をしている。丸腰の僧侶やジャーナリスト、一般市民に対する暴力をはたらく兵士の姿には、それを強要する人間のもつ非情さに恐ろしさを感じるが、こうした国を超えた連帯の中には、人間の中の仏をみる思いでもある。今回ビルマで平和的な抗議行動を通して立ち上がった多くの僧侶、尼僧、一般市民の思いを伝え、こういった人たちと共にあるべく、自分にできることは何か問い続けこれからも行動を続けていきたいと強く思っている。

参考:Facebookは誰でも自由に無料で登録できるSNSです。画面のセッティングや指示は英語ですが、メッセージの書き込みなどは日本語でもできます。ぜひ登録して、Support the Monks' protest in Burmaのグループに参加してください。世界各地の抗議活動の様子、ビルマの様子などの写真も1300枚以上(10月9日現在)投稿されていて、グループの参加者が自由に見ることができるようになっています。動画もあります。世界各地での抗議活動の予定なども掲載されており、いろいろなテーマでさまざまなディスカッションも活発に行われているので、世界各地での抗議活動の様子を知ったり、世界に向けて情報発信するにはとてもいい場であると思います。

出典:BurmaInfo: 細見由紀子-イギリス、世界でのビルマ軍政に対する抗議活動の広がり・一個人の思い(2007年10月9日)