ビルマ―「発展」のなかの人びと

ビルマ―「発展」のなかの人びと (岩波新書)

ビルマ―「発展」のなかの人びと (岩波新書)

日本とは昔から関係が深いビルマ。そこではいま、「開発」を優先する軍事政権と、国民の希望を背に民主化をめざすアウンサンスーチーたちの勢力が緊張関係にある。30年以上にわたってビルマとかかわってきた著者は、人びとの肉声を通じてその生活を紹介しつつ、政治・経済・社会の現状を解説し、在日ビルマ人の暮らしも活写する。

長井さんの事件があって以来、「ビルマと言えば」というフレーズがここかしこで聞かれる。「ビルマの竪琴」「アウンサンスーチー」「仏教国」「微笑みの国」、それと太平洋戦争に従軍した年配の人ならば「ビルマ戦線」というのも思い浮かべるだろう。この私も9月27日まではこの程度しか知らなかった。このブログを始めてから、何故ビルマという国がこの混乱状態になっているのかというを知りたくてこの本を読んだ。
すると、「ビルマの竪琴仏教徒を侮辱していた?」とか、「アウンサンスーチー」か「アウン・サン・スー・チー』か、とか、「ビルマにも関東、関西がある?」とか、「実はビルマ仏教徒ばかりではない?」とか、「微笑みの奥底に隠した恐怖心」とかがわかる。つまり、私たちがこれまで考えていた「ビルマ」へのイメージが一変されるわけだ。公称130あるといわれる少数民族、それにともなう言語、宗教。千年以上まえから国内はもとより、隣国インド、タイ、中国と繰り返してきた紛争、それに伴う人々の流入。そしてイギリス、日本の植民地化、第二次大戦後の独立運動、軍事政権の独裁政治。ビルマという国は、その成り立ちからして、とても簡単に割り切れる国ではない。そのような国の入門書としては好書。今現在流布しているニュース、情報からは知りえない国の内情が200頁余りの新書から理解できる。同時に一方で在日ビルマ人の生活から、彼ら彼女らの風俗、習慣、考え方、そして難民として生きることとはという、普通の日本人にはわかりえない生き方も理解できる。
ただ初版が1996年と十年前のものであり、手に入りにくい可能性があるのと、それ以降のビルマの情報が記されていないのが難点か。が、後者は次の新書で補えるだろう。

ビルマ軍事政権とアウンサンスーチー (角川oneテーマ21)

ビルマ軍事政権とアウンサンスーチー (角川oneテーマ21)

同書ではアウンサンスーチーさんについて、その思想や行動がより詳しくわかる。いずれにしてもあの長井さんの事件があって、今ビルマに関心を持ち始めた人にとっては是非読んでおいて損はない。