ビルマ問題は制裁では解決しない。

ビルマ問題は制裁では解決しない フィナンシャル・タイムズ

しかし近年では、ビルマには何としてでも体制変更が必要だとする人の中でさえ、欧米の孤立政策はいかがなものかと考え直す傾向が出てきた。中でも注目されるのは、ビルマ出身のウ・タント国連事務総長の孫で、自らも国連職員のタン・ミン・ウ氏。彼はずっと長いこと軍事政権に対抗してきたが、「制裁の議論には大きな欠陥がある」と考えるようになったという。

タン・ミン・ウ氏は近著「The River of Lost Footsteps (失われた足跡の流れ)」や著名書評紙「ロンドン・レビュー・オブ・ブックス」への寄稿で、3つの理由をあげてビルマ制裁の実効性を疑っている。第1に「軍部の多くにとって、制裁など大した問題ではないからだ。政治的に自滅するか、それとも全く信頼していない外の世界と関わるか、二者択一でどちらかを選べと迫られたら、彼らにとって議論の余地などない。孤立こそが、軍部にとってのデフォルトの状態なのだ」。第2に、「制裁と言ってもそれは結局、西側からの制裁でしかない」。つまり欧米などがいくら制裁を重ねても、ビルマは貿易が続けられるし、それによってビルマはますます中国の勢力下に収まることになるのだ。最後に、もし仮に国際社会全体による包括的な制裁が可能になったとしても、「軍事政権のトップは(ナチス・ドイツのヒットラーがそうだったように)最後の最後まで地下壕に立てこもるだろう。地上で、国がまったくのアナーキー(無政府)状態に陥っていても」とタン・ミン・ウ氏は指摘する。

ビルマアナーキー状態に陥る危険は、無視できない。ビルマには、民族主義運動の長い歴史があり、かつ国内各地に麻薬密売を資金源にした地元民兵組織がある。複数の民族で構成された国家において、全てを束ねていた独裁政府が外圧によって突然なくなったら、その国はいったいどうなるか。イラクの苦い経験から、教訓を学ばなくてはならない。

タン・ミン・ウ氏は、米国が新しく発表したような、軍政指導部のみをターゲットにする制裁ならば、各国の共同歩調の一環として有効かもしれないと認める。しかし今回の騒乱を経ても軍政が存続するなら、ビルマをこれまで以上に孤立化させるのは逆効果だと言う。もっと望ましいのは、海外からの投資拡大と、「軍政と近隣諸国が全て当事者となって参加する、本格的な外交」だと同氏は呼びかける。

つまり今のビルマミャンマー)というのは核のない北朝鮮みたいなものか。だからこそ今のアメリカにとってはもはや人権問題だけでは、自国の利益にかかわりなければ、かの国に介入する優先順位は低いのだろう。中国?ロシア?自分の所にミサイルや有害食品が来ない限りは関係なかろう。イギリスやフランスは人権を錦の御旗にミャンマーに圧力をかけてはいるが、どちらかというと新首脳の中国・ロシアへの外交的な力のお披露目といったところ。したがって今回の国連の安保理議長声明が「非難」から「強い遺憾」へとトークダウンしたのも一種のゲームというか綱引きなのだろう、ある程度の線で妥協し中国・ロシアの、自国に民族問題を抱える大国の言い分を聞いたのではないか。表向きは早く声明をまとめて発表することで軍事政権に圧力をかけたいということだが、結局はそんなところであるまいか。
北朝鮮問題の六カ国会議と同じようなものを行えないか、ということが「軍政と近隣諸国が全て当事者となって参加する、本格的な外交」の一文に現れているが、問題の中国は来年の北京オリンピックが無事終わるまでは、今回の議長声明決議と同じように優柔不断に物事を引き延ばしてごまかそうとするのではないか、と個人的には考える。オリンピックさえ終わってしまえば、よりビルマとの関係を確固たるものにするに違いない。そういった大国の綱引きに一番迷惑するのはビルマの一般市民だ。記事にあるように外交的圧力が高まって孤立するのも困る、かといって中国が台頭して軍事政権との間の力が増して、人権弾圧がいっそう激しくなるのも困る、何とも身動きのできない状況に追い込まれることになる。しかも複雑な民族問題を抱え、国民が一つになれないジレンマもある。しかしイラクと違って幸運なことに、今は深刻な内戦状態には陥っていないことだ。国内と国外とで話し合いの糸口がつかめる状況にはある。まずは軍事政権と諸外国が話し合い、段階的に軍政から民政への移行を促していくしかないだろう。もちろんそこにはアウンサンスーチーさんをはじめとする民主化勢力の参加は必須。彼らが地下に潜ることなく表に堂々と出てきて話し合いに参加できてこそ、民主化の第一歩ということができると思う。